「ストレスチェック制度はうつ病社員のあぶり出しに使え」!? モラル逸脱は合法でも第三者の反感を買う

勤務態度が不真面目。反抗的。問題行動が多い。こういう「問題社員」に対して「できれば会社を辞めてほしい」と思っている経営者は少なくないかもしれません。しかし、たとえ合法の範疇であっても、パワハラや嫌がらせなどモラルに反する手法で会社を辞めさせると、痛烈な糾弾を受ける可能性があります。
では、こうした被害を避けるために、経営者はどうするべきでしょうか?

「無用な荷物であるうつ社員は捨て去るべき」

愛知県のある社会保険労務士は、会計事務所を経営するかたわら「モンスター社員を解雇せよ! すご腕社労士の首切りブログ」を開設し、問題社員を会社から追放するためのノウハウを提供していました。
しかし、2015年11月24日に掲載した「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」という記事が「あまりにひどい」とネットで拡散され、マスコミもそれを取り上げました。

問題になった記事は、「モンスター社員をなんとかうつ病にして会社から追放したいのですが、いい方法はありますか」という質問に対して、この社労士が回答するというQ&A形式になっています。
その回答の内容をかいつまんでみると、
「適切合法なパワハラを行ってください」「万が一本人が自殺したとしても、うつの原因と死亡の結果の相当因果関係を否定する証拠を作っておくこと」などとなっています。

また、別の記事では、2015年12月から従業員50人以上の事業所に対して義務付けられた「ストレスチェック」について、「うつ社員のあぶり出しに活用せよ。無用な荷物であるうつ社員は捨て去るべき」などとアドバイスしています。

第三者の正義感に火をつけない

一方で、このような記事を読んだ労働者はどう感じたのでしょうか?
この記事が拡散されると、「懲戒しろ」という意見が多数を占めました。中には、「上司に逆らう、遅刻、タバコさぼりってのは死に値する罪じゃないよね。いくらなんでも。そのくらいで人を死に追いやるのが平気なの? あまつさえ楽しめるの?」と、激しい怒りを表すコメントもあったようです。

また、このような社会的モラルから逸脱した言動は、何の利害関係もない第三者の正義感にまで火をつけてしまいかねません。
SNSはこうした「社会的正義感」を発揮するのに最適の場ともいわれています。「こんなひどいことがまかり通っていいのか!」という情報を拡散することで、拡散者は自分を「社会悪を糾弾する善良な市民」としてカタルシスを得られることが理由とされているようです。

総務省の「情報通信白書のポイント」では、SNS利用者に「拡散する情報の基準」を尋ねた結果が公開されています。

1位 内容に共感したかどうか 46.2%
2位 内容がおもしろいかどうか 40.4%
3位 生活に役立つ内容かどうか 30.4%
4位 社会的に重要な内容かどうか 26.9%
5位 内容の信憑性が高いかどうか 23.5%

この結果から、「信憑性が高いかどうか」(5位)よりも「社会的に重要な内容かどうか」(4位)が優先されていることがわかります。つまり、ともすれば真実かどうかよりも、社会問題であるかどうかで拡散が広まる可能性を示唆しています。
このような状況を鑑みると、たとえ合法的に問題社員を追放できたとしても、その辞めさせ方にモラル上の問題があれば、その情報が本来無関係な第三者の正義感に怒りに火をつけ、すさまじいスピードで企業や経営者が糾弾される可能性があるということです。

コンプライアンスを遵守していれば鎮火は容易

今日の経営戦略では、コンプライアンスが非常に重大なテーマとして扱われています。
コンプライアンスを遵守している企業であれば、悪意ある第三者が根拠のないデマを拡散させようとしても、そのようなデマの拡散力はそれほど強くありません。もちろんデマを放置しておくのは良くありませんが、適正なレピュテーションマネジメントで容易に鎮火できるものと思われます。なぜなら、「そのような事実はない。当社はコンプライアンスを遵守している」と公明正大に反論できるからなのでしょう。

しかし、事実に基づく糾弾の場合、拡散者側に「正義」があるといってもいいでしょう。非合法ではなくとも、モラルから逸脱した企業の行動は、多くの人々を敵に回し、拡散者は次々に増殖していくことが予想されます。
また、最近はマスコミもネット上の情報に敏感です。少しでも「この炎上には根拠があるのでは?」と思えば、さらなるマイナス情報の取材がされかねません。もし、それが報道されれば、情報拡散にはさらに拍車がかかり、糾弾の連鎖が始まる可能性もあります。
舛添前東京都知事の政治資金問題が「糾弾の連鎖」の典型的なケースで、次々と明らかになる事実で袋叩きにされ、ついに辞任を余儀なくされました。

モラル違反は高くつく

冒頭で紹介した社労士は、マスコミの取材に対して「モンスター社員を真人間にするためとの思いで書いたが、誤解を与えてしまった」と弁明しています。
しかし、問題となったブログのほかの記事タイトルを見ると、「解雇の証拠づくり」「効果的な精神的打撃の与え方」「正しいパワハラの勧め」など、社会的モラルを逸脱しているととらえられてもおかしくない言葉の表現が見られます。

もしこのような提言を実践している企業があるとすれば、辞めさせられた当人は会社に恨みを抱き、いつどのような形で糾弾されるかわかりません。また、事情を知る別の社員から内部告発される可能性もあります。

そのような糾弾のリスクを計算すると、弁護士に相談するなどして労働基準法に準拠する「解雇の正当な理由」で堂々と解雇したほうがいいかもしれません。退職勧告など、双方合意の上で退職してもらう方法もあるはずです。

おわりに

この事例を見ていると、雇用のようなデリケートな問題に関しては、企業はコンプライアンスを徹底的に遵守することが、最も低コスト・低リスクにつながるものと思われます。

たとえ「炎上マーケティングを狙う」という目的があったとしても、多くの敵を作るリスクも考慮しておく必要があるでしょう。実際、この社労士のブログの狙いも「炎上マーケティング」と予想している人もいたようですが、最終的には日本労働弁護団や「全国過労死を考える家族の会」から抗議を受け、厚労省から業務停止3ヵ月、愛知県社会保険労務士会からは3年間の会員権停止処分と退会を勧告されました。

<参考URL>
ハフポスト 「社員をうつにする方法」ブログの社労士に退会勧告 愛知県社労士会
http://www.huffingtonpost.jp/2015/12/30/certified-social-insurance-labor-consultant_n_8892716.html
毎日新聞 愛知の社労士「社員をうつ病にして追放する方法」
http://mainichi.jp/articles/20151219/k00/00e/040/202000c
総務省 平成27年版 情報通信白書のポイント
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242250.html

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