かたや「成功」かたや「炎上」。 「共働き」をテーマにした動画の評価が両極端に分かれた理由

2014年のことですが、「夫婦の共働き」をテーマにした2本の動画が大きな話題となりました。しかし、一方の動画は視聴者に概ね好意的に受け入れられたのに対し、一方は炎上するという対照的な結果になりました。
この事例から、ネットコンテンツが視聴者に与える影響や予測される反応といったことについて、「どうしてそうなるのか」を考えていきたいと思います。

2つの動画の概要

グループウェアサービスを提供しているサイボウズの「大丈夫」という動画は、子供が急に発熱し、大切な会議を放り出して帰宅せざるを得ないワーキングママの苦悩を描いた約3分のショートフィルムです。

■大丈夫
http://cybozu.co.jp/company/workstyle/mama/

子供への愛情、仕事への意欲や責任感、毎日深夜帰宅の夫。現実に押しつぶされそうになりながら、「自分はちゃんと役割を果たせているだろうか?」と自問自答するワーキングママの話です。

一方、「妻の家事ハラ白書」は、ヘーベルハウス(旭化成ホームズ)の「共働き家族研究所」のCM動画です。

■妻の家事ハラ白書
http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/kajihara/index.html/

動画全体の長さは2分ですが、内容的には1話あたり約15秒で構成されたCM動画の連作となっており、いずれも「夫が家事を手伝っているところに妻が何気なくかけた言葉。その言葉に夫が傷付き、以降は家事を手伝わなくなってしまう」という構成になっています。

そして最後に、「妻の何気ない一言が、夫の家事参加を妨げている。そんな事例があります。家の中でも協力し会える「共働き家族」へ。いっしょに考えていきませんか?」というような提案で締めくっています。

何が明暗を分けたのか?

一見、どちらも視聴者の共感を呼びそうな動画であるにもかかわらず、「大丈夫」は多くの視聴者に好意的に受け入れられたのに対して、「妻の家事ハラ白書」には批判が集中してサイトは炎上しました。
なぜ片方は評価され、片方は炎上したのでしょうか。これについては、さまざまな説があります。

例えば、プレスラボのライター・山本莉会さんが「WEDGE Infinity」に発表した記事では、「大丈夫」に関して「私は未婚ですが、動画を見てより一層結婚出産が怖くなったよ。自分の生き方、子供を育てるという大仕事、どう両立させるのか」や「これ見てみんなママ達頑張ってるよねと言いたかったのか、こんなにタスクあるんだよと夫達に知らせたかったのか。え、で?な感想だった」という批判もあった一方、「CMに心から共感するし、考えさせられる。そしてこの状態は全く大丈夫じゃない」など、比較的温かく受け入れられたとしています。
しかし、「妻の家事ハラ白書」に対しては、家事ハラという言葉を誤用し「家事を行う夫のやる気を失わせる妻からの言葉」としていたことや、家事を分担するべき共働き家庭で、夫が家事を「手伝う」という表現をしていたことにも批判が集まった、と分析しています。

「家事ハラ」というキーワードの誤用が炎上を生んだ

「家事ハラ」という言葉について簡単に説明しておきましょう。
「家事ハラ」というのは、内閣府男女共同参画会議基本問題専門調査会委員を務めた和光大学教授・ジャーナリストの竹信三恵子さんの造語で、その意味は「家事労働を担う人々を蔑視・軽視・排除していく社会システムによる嫌がらせ」となっています。これに対し、ヘーベルハウスのCMでは、同じ「家事ハラ」という言葉を別の意味で使用しています。

ヘーベルハウスの「妻の家事ハラ白書」のページでは、このギャップについて、竹信三恵子さんの著書や本来の「家事ハラ」の意味を説明するとともに、「本サイトでは『男女の家事シェアを促進する』という趣旨で、意欲はあるものの夫の家事がうまくできていない現状を顕在化させる広告表現として、家事に対する何気ないダメ出し’のことを『家事ハラ』とネーミングして使用しております。一方で、和光大学教授竹信三恵子氏の著書で『家事ハラ』については既に用いられており、その内容の差異を掲出する目的でご紹介をしております」と説明しています。

しかし、当の竹信三恵子さんは総合情報サイト「ウィメンズ アクション ネットワーク」に掲載したエッセイで、「(ヘーベルハウスの広告は、家事ハラという言葉の意味を)家事をやらされる男性のつらさを指す言葉に転化させられてしまった」と不快感を表明しています。

また、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員でもあるジャーナリストの治部れんげさんは、「Yahoo!ニュース」に掲載したコラムで、「子どもを持つ女性の多くが、そして責任感を持って家庭参加している男性たちが、家庭のために自分がやりたいことを少なからず犠牲にしているという本質を(ヘーベルハウスは)かわしつつ茶化している」とし、「このままでは逆マーケティングになる可能性が大きい」と結論付けています。

おわりに

「妻の家事ハラ白書」が炎上した理由は、
・「家事ハラ」という非常に重い意味を持つキーワードを軽く扱ってしまった
・既出の「家事ハラ」という言葉と違う意味で使用した
という2点に集約できるかもしれません。
しかし、根本的な部分では、「家事ハラ」動画のゴールが商品販売で、「大丈夫」動画のゴールは「社会への気付きを与えること」だったことが、この2つの動画の成否を分けたのではないか、とも考えられているようです。
ここで紹介した2本の動画は、2016年6月の時点でもまだネット上に公開されています。
ぜひ、双方をご覧になり「ユーザーに訴求しつつ炎上しないコンテンツはどうあるべきか?」を考える材料にしていただければと思います。

<参考URL>
共働きを題材にした「炎上例」と「成功例」に見る社会を動かす動画の作り方
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4554?page=1
ヘーベルハウス 妻の家事ハラ白書
http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/kajihara/index.html/
サイボウズ ワークスタイルムービー 「大丈夫」
http://cybozu.co.jp/company/workstyle/mama/
竹信三恵子  「妻の家事ハラ」炎上から見えた少数者の言葉を無力化する「装置」
https://wan.or.jp/article/show/3930
「妻からの家事ハラ」に女性たち+まともな男性が怒る理由。このままだと“逆マーケティング”に
http://bylines.news.yahoo.co.jp/jiburenge/20140727-00037723/

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